東京高等裁判所 昭和59年(行コ)20号 判決 1985年4月30日
控訴人(原告) 細川悟
被控訴人(被告) 東京消防庁消防総監
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五〇年四月二七日付で控訴人に対してした懲戒免職処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張は原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであり、証拠関係は記録中の原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
理由
当裁判所は、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決理由中に説示するところと同一であるから、これを引用する(但し、原判決二五枚目表一〇行目の「同所」の前に「そのころ」を加え、同二八枚目裏一〇行目の「前記各証拠によれば、」を「前記認定事実によれば、控訴人は、深夜降雨中交通量の多い国道四号線上で自車前部を被害者に衝突させて、同人をボンネツト上にはね上げたうえ路上に転倒させたものであつて、このような控訴人の加害行為がなければ被害者は死亡を免れ得たものというべきであり、かつ、このような控訴人の加害行為によつて通常被害者が身体の自由を失ない二重轢過の事故に遭遇して死亡するに至るであろうことは見易い道理であつて、」と改める。)。当審における証拠調べの結果によつても、右認定、判断を覆すに足りない。
すなわち、前記認定のとおり、控訴人は、昭和五〇年四月二四日午後五時四〇分ころから九時三〇分ころまで相当量の飲酒をしたうえ、その影響が消えたとは認められない約二時間四〇分後の同月二五日午前〇時一〇分ころ本件事故を起こしたものであつて、飲酒の上の交通事故であるということができ、自車を運転中本件事故によつてフロントガラスが大破して雨が降り込む状態となつたにもかかわらず、停車の措置をとらずそのまま運転を継続した控訴人には本件事故が人との衝突であつたことについて少なくとも未必的な認識があつたものということができ、本件事故が二重轢過を引き起し被害者を死亡させるに至りうることは通常予見可能の事柄であつて、控訴人車の被害者への衝突と被害者の死亡との間には相当因果関係を認めることができるから、本件処分に事実誤認の違法は認められない。また、前記認定のような本件事故の程度、態様と控訴人の地位に照せば、被控訴人が控訴人の本件行為につき地方公務員法二九条一項一号及び三号に該当するものとして懲戒免職処分をしたことはやむを得ないことであつて、被控訴人の裁量権の濫用ということはできない。さらに、前記認定の事実関係に照せば、被控訴人が本件処分をすることについて告知・聴聞の手続をとらなかつたとしても、これによつて本件処分の効力に影響を及ぼすような手続上の違法があつたと認めることはできない。
以上の次第で、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木重信 加茂紀久男 梶村太市)